風の峠に挑んだ春の朝 - 幸せカメラ.net

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風の峠に挑んだ春の朝

      2016/05/10

「無理!」

日の出前に「風の峠」に到着し、車から降りた瞬間、僕はそう叫んだ。

あまりにも風が強すぎて、風上側のドアを開けて降りると、すぐに自動で閉まるほどだった。

ここは「美幌峠」。

一年中風が強いことで知られる道東の観光スポットだ。

前日の夜、天気予報を見て「絶景を撮る」そのために早起きしてここまでやってきた。

絶景に出会う確率を飛躍的に高めるコツ

いつもなら、数台の車が停まっていて、車中泊だったり日の出の撮影だったりと、ここが無人というのは今まで見たことがなかった。

でも今朝は違った。

誰もいない・・・

素早く防寒着をまとい、公衆トイレに向かいながら自分の気持ちを確かめる。

決めなければならなかった。

行くのか、行かないのか、を。

峠の駐車場から展望台までは100mあるかないか、それくらいの距離だ。

天候が良ければ、ゆっくり歩いても5分ほどで展望台に着く。

ただ、この風と地吹雪の中そこまで行ったとしても、何も見えないだろうし、身の危険もあるだろう。

北海道もようやく春の訪れを感じさせる陽気になってきたけど、ここは真冬でもそうないような激しい地吹雪でその全てが凍り付いていた。

NDS_0882

「この風じゃ三脚は無理。凍傷のリスクもあるし、それに太陽も出ないよ」

少し用心深い方の僕がそう囁いた。

「いやいや、行ってみなきゃわからないって!せっかくここまで来たんだから、お前なら行ける!」

無謀でイケイケのもう一人の僕が煽ってくる。

そして大体僕はいつも、後者の意見を選択するんだ。

わかってるよ、僕なら行ける

車に戻り、少し緊張しながら防寒装備をチョイスした。

気温は氷点下6度くらい。

風は恐らく風速15m以上あるだろう。

体感気温はマイナス20度を下回るはずだ。

そこで厳冬期用の氷点下25度仕様の装備を選択した。

風下側のドアを開けて、底のぶ厚い防寒ブーツを履こうとシューズを脱いだ瞬間、強風で脱いだ靴が飛ばされてしまった。

正確に言うと、カーリングの石のようにスーッと流れていったのだ。

面白い♪

こんな光景はめったに見れるもんじゃない。

素早く防寒ブーツを履いて、スマホを動画モードにして風の中に靴を置いた。

「あれ?全然靴が流れない・・・笑」

素手だと凍傷のリスクがあるので、大人しくその撮影は中止した(笑

そして完全防備でいざ峠の展望台を目指して歩き出した。

ちょうど僕は雲の中にいるらしく、立っているだけで自分に霧氷が発生してくるのを感じた。

NDS_0857

(記事の画像はファイルサイズ縮小のため、画質を落としています)

これは冬に登山していたりするとよくあることだ。

そして上手く風下を向いて歩けば、それほど寒くはなかった。

さすがマイナス25度装備

安心感に包まれて、転ばないように一歩一歩進んだ。

この時期にこんな霧氷を見れるとは思わなかったので、こんな悪天候でも撮影は捗った。

NDS_0871

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自分が雲の中にいるので、空が見えないせいか、不思議な感覚だった。

背景が映らない景色もそれはそれで面白い。

NDS_0945

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ただ、油断すると風で吹き飛ばされそうになるので、耐風姿勢での撮影となった。

展望台への道はまだまだ雪深く、たまに踏み抜くと膝上まで埋まるほどだった。

 

それでも日中の陽射しで融けた石畳の階段が見えている箇所もあり、そこはガリガリに凍っていたので、逆に滑って危なかった。

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手すりや岩もその全てが凍り付いていた。

NDS_0922

僕やカメラにもどんどん霜が付いてきて、元旦の雌阿寒岳初日の出登山を思い出した。

そしてようやく展望台まで辿り着いたのだけど、やはり何も見えなかった。

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思っていた以上に雲が厚く、今までの経験から考えると晴れ間を期待することはできないコンディションだった。

それでもしばらく峠をうろうろしながら奇蹟を待った。

動いていないと体が冷え切ってしまう恐れがある。

その時、一瞬湖が顔を出した。

NDS_1020

が、すぐに雲に飲み込まれてしまった。

展望台に行ってからすでに30分は経過していた。

何度も戻ろうと思った。

でも、「待つことも大事」と、僅かな希望に必死でしがみついた。

NDS_1096

そして顔と手の感覚がちょっと鈍くなってきたので、少し下ろうと歩き出した。

すると、右手に何か光の玉のようなものが見えた。

NDS_1172

基本的に雲の中にいたので、その全てが真っ白に見えるのだけれど、たしかに一瞬光が見えた気がした。

「幻覚か?」

もう少し降りてみる。

すると、雲が少し薄くなり、湖に光が降り注ごうとしていた。

「よし、これだ!これを待っていたんだ!!」

僕は手すりに体を押し付けて、風で動かないように固定した。

NDS_1189

そして雲の動きと光の行方を見逃すまいと集中した。

淡い光は激しい地吹雪の斜面を優しく照らした。

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その美しさに僕は涙が出そうになった。

でもここで泣くわけにはいかない。

目が凍ってしまうからだ。

NDS_1200

やっと訪れたタイミングに必死でシャッターを切った。

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気が付くと指の感覚は痺れへと変わっていた。

「まずい、凍傷になる」

慌ててポケットに手を入れて温めた。

 

ふと展望台の方を見ると、雲間に青空が見えた。

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「雲が割れているのか?」

そう思い西の方を見た瞬間、背筋が寒くなった。

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黒い雲が雪を巻き込んで猛烈な勢いでこちらにやってくるのが見えた。

風で飛ばされた雪や氷が顔に当たって痛かった。

風は来た時からずっと西の方から吹いていた。

そして僕は東を向いて撮影していたので、その恐ろしい光景に今まで気が付かなかったのだ。

でも・・・

「あれだけ雲が暴れているなら、もしかしたら隙間ができるかもしれない。」

空が荒れている時、絶景が現れるケースもある。

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そして予想は当たった。

荒れた雲が僕のいる場所を通過し、その隙間から湖が見えたのだ。

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一瞬だけど空も見えた。

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期待できる

そう感じて、もう少し粘ることにした。

顔と手をなるべく風に晒さないように、体を丸めて待った。

真っ白い空間がしばらく続いた後、再び後ろを見ると雲の切れ間がこちらにやってくるのがわかった。

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「来い!光を見せてくれ!」
そして湖の上にその切れ間が移動した時、美しい光景が目の前に現れた

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少しずつ明るくなってくる凍結した湖面。

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その一部分に太陽の光が射し込んだ。

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「始まった・・・ショータイムだ」

すでに指先の感覚はなくなっていた。

続きます・・・。

※今回の撮影に関しては、冬山登山や厳冬期撮影が趣味の筆者の経験に基いて行っております。
危険なので、決して真似はしないでくださいね♪

→次回記事:風の峠に現れた光


 - AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR, AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II, NIKON D810, 美幌峠, 風景 , , ,