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風の峠に現れた光

      2016/05/10

何やら怪しげなタイトルになってしまいましたが(笑)そのうちまた言葉を探してみたいと思います。

今回の美幌峠での撮影はかなり内容が濃く、話が長くなりましたので前回に引き続きお届けします。

前回記事:風の峠に挑んだ春の朝

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ここは「風の峠

僕が勝手にそう呼んでいるだけだが。

それくらい、いつ来ても風が強いのだ。

今朝はこの美幌峠で朝日を見たくて早起きしてやってきた。

ところが、着いてみるとそこは猛烈な風が支配する銀世界だった。

世の中はすっかり春ムードだが、僕は厳冬期でもなかなか体験できないような空間に身を置いていた。

NDS_1303

猛烈な風と地吹雪の中、凍結した湖面に現れた柔らかい光。

それはゆっくりと形を変えながら南の方へと移動していく。

この時を待っていたんだ

すでに霜がびっしりとついたカメラで、ファインダー越しに光を追いかける。

NDS_1312

「眩しくない」

そう思った。

NDS_1320

だが、思っていたほどその光は成長せず、次第に明るさを失っていく。

光のショータイムはとても儚く短かった。

また雲の時間か・・・

そして光は南側の湖岸の辺りでその姿を消した。

NDS_1332

光が消えたということは、また厚い雲の世界に突入するということでもある。

それでも、朝のような均一の白い世界ではなく、風のリズムが変わるたびに雲に隙間ができるようになってきた。

NDS_1337

「天候は下り坂なのか、それとも回復するのか」

全くわからなかった。

峠は天気の境界線でもある。

右側は曇っていても左側は晴れている、なんてこともしょっちゅうだ。

それはまるで山の稜線にも似ている。

「そうだ、ここは稜線なんだよ」

NDS_1346

山の稜線であれば、このような悪天候もすんなりと受け入れることができる、そう考えた。

いや、もしかしたら自分にそう言い聞かせていたのかもしれない。

NDS_1362

その後も強烈な風は時折雲を切り裂き、湖と空の間に空間を創った。

そのたびに僕は空間をカメラで切り取る。

そんなことを繰り返すうちにいつしか手の感覚が薄れていった。

NDS_1367

その頃、僕は「勇気」と「無謀」の境界線を彷徨っていた。

「勇気を出してもう少し頑張れ!」と自分を奮い立たせる想いと、

「大丈夫、問題ない、何とかなるからそのまま続けろ!」という無謀な勢い。

そのどちらにも「撮影終了」という選択肢は入っていなかったのだが。

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こんな時、手が冷たくなって動かなくなったら、僕はいつもある方法を取り入れている。

それは、ヒマラヤの最高峰エベレストに登ることでも知られている冒険家の「三浦雄一郎」さんが、以前メディアで話していたスキルを参考にしている。

例えばお湯を空中に放り投げると一瞬で凍ってしまうような、そんな極寒の世界が雪山にはある。

三浦さんがそんな雪山を登山中に、休憩しようと保温ボトルをリュックから取り出しコップに飲み物を注いだ。

その時は「素手」だったという。

そして誤ってその飲み物を手にこぼしてしまった。

お湯が一瞬で凍る世界

凍傷のリスク

三浦さんはその時、間髪入れずに猛然と山をダッシュで駆け下りたらしい。
そして走ることで体温を一気に上げて、手を凍傷から守ったと聞く。

それは咄嗟の判断で、考えてやったことではないと言っていた。

そしてそのような「危機対応能力」が極限の世界では必要なんだ、と強い口調で語っていた。

流石、数々の修羅場をくぐり抜けてきたプロの冒険家だと思った。

なぜ素手で飲み物を注いだのか?

その疑問については触れてはいなかったが(笑
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僕は偶然その話を聞いた時に、「なるほど!」と納得したのを覚えている。

冬山を登る際、「汗をかく」という状態はなるべく避けたい。
体温が上がった時、それを下げるための調節機能が「汗」だが、必要以上に汗をかくと、脱水症状や汗冷えなどのリスクが発生する。

特に厳冬期の登山は水分補給が難しい。

厚手の手袋をはめているのでちょっとした作業も億劫になったりする。

なので、なるべく体温を上げないように一定のペースで行動するのが基本だ。
ただ、あまりにも寒くなってきたら、意図的に少し動きを速めたりする。

すると、体温が上がって、少し経つと手もじんわりと温まってくる。

話が少し逸れたが、この日の朝は、強風の中カメラを手持ちで構え続けていたので、すっかり手が冷えきってしまった。

そこで、体を動かして熱を生産するために、展望台の高いところへと再び登った。

NDS_1071

そしてまた降りてから再び登る。
繰り返すと息遣いが荒くなり、心拍数も速くなった。

ただ、実際の気温は氷点下6度くらいだったので、風の影響を受けない防寒着の中は暑いくらいだった。

汗を掻くのはマズイ

手と身体、双方の体温調節が難しかった。
あまり厚手の手袋をはめてしまうと、カメラの操作性が悪くなる。

僕は冬期の撮影時にはいつも小さな「ミニカイロ」を両手袋の中に入れている。
それがあると「手袋一枚分」の保温効果がある。

でもこの朝は、そのミニカイロの熱エネルギーはすべて風に奪われているようだった。

そして展望台の頂上付近でウロウロしていると、代わり映えのしない景色にだんだんと飽きてきた。

NDS_1377

ここに来てからすでに1時間半が経過していた。

その間はほぼ霧氷を発生させる雲の中にいたことになる。

普通の感覚なら撮影をやめて引き返すか車で待機するところを、一瞬の絶景を求める気持ちが強く、風の峠から動けずにいた。

もういいんじゃないか?

先ほど現れた一瞬の美しい光を撮れたのだから、これで良しとしよう。

NDS_1375

僕は自分を納得させるように呟き、駐車場へ向かった。

その時、さっきとは少し風向きが変わったのを感じた。

NDS_1395

ここに来た時から常に西の方角から吹き付けていた風が、少し北寄りに変わったのだ。

そしてこちらに向かってくる雲に隙間を見つけた。

「もういい、戻ろうよ」

小さな声でそうつぶやいた。

NDS_1412(次第にクリアになっていく湖面)

だが、僕の中の「無謀君」が足を止めた。

「駄目だ!あの雲が過ぎ去るのを見届けるべきだ!」

そして僕はまたそこで待った。

が流れてくるのを。

NDS_1432

「ポッ」

その時、小さな光の円が凍結した湖面と中島を照らした。

NDS_1470

「ポッ、ポッ」

また違う場所にも光が現れた。

そして辺りは少しずつ明るくなって行く。

「レンズ、どうする?24mmか、200mmか?」

僕は迷った。

実は、普段ならカメラ2台体制で撮影に臨むのだが、あいにくD750メンテナンスに出していて、今朝はD810の1台のみで撮影していたのだ。

欲張りな僕は、いつも大三元の最高級ズームレンズを2台のカメラに装着して、一瞬の絶景を撮るべく振り回している。
(24-70mm f/2.8と、70-200mm f/2.8の2本)

ところが今朝はボディが1台しかなかったし、強風と地吹雪でレンズ交換もままならない。

それでも無我夢中でレンズを交換しながら撮影していた、と思う。

実はこれを書いている今、その時の記憶はちょっと曖昧だ。

なぜなら、それほどまでに心を奪われたからだ。

NDS_1491

 

この後の圧倒的な光景に・・・。

大自然の美しさは僕の想像を遥かに越えた・・・。

続く・・・

→次回記事:「風の峠」最終章~湖を渡る光のカーテン

 


 - AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR, AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR II, NIKON D810, 美幌峠, 風景 , , , ,